「まだ元気だから、承継はもう少し先でいい」。そう考えているうちに、準備の時間が足りなくなってしまうケースは少なくありません。事業承継は、後継者を決めてから実際に引き継ぐまでに、一般的に5年から10年かかるといわれています。
会社を次の世代へつなぐ方法は、大きく分けて3つあります。この記事では、それぞれの特徴と向いている会社、そして早めに始めたい準備を解説します。
この記事でわかること
- 事業承継の3つの選択肢と、それぞれの特徴
- どの選択肢が自社に合っているかを考える視点
- どの選択肢でも共通して必要な準備
事業承継の3つの選択肢

| 選択肢 | 主な引き継ぎ先 | よい点 | 課題になりやすい点 |
|---|---|---|---|
| 親族内承継 | 子どもなどの親族 | 社内外の理解を得やすい。準備期間を長くとれる | 後継者の意思と適性。株式の集め方と税金 |
| 従業員承継 | 役員・従業員 | 事業や社風をよく知る人に任せられる | 株式を買い取る資金。借入の個人保証の引き継ぎ |
| M&A(第三者承継) | 他の会社・個人 | 後継者がいなくても会社を残せる。売却代金を得られる | 相手探しに時間がかかる。条件の交渉が必要 |
親族内承継:早めの後継者教育と株式の整理が鍵
子どもなどの親族に引き継ぐ方法です。取引先や従業員の理解を得やすく、時間をかけて後継者を育てられるのが大きな利点です。

一方で、後継者本人に継ぐ意思があるか、経営者としての適性があるかは、早い段階で率直に話し合う必要があります。また、自社株の評価が高い会社では、株式を引き継ぐ際の贈与税や相続税が大きな負担になることがあります。
事業承継税制の期限にも注意
- 非上場株式の贈与税・相続税の納税を猶予する「事業承継税制」には、要件を緩めた特例措置があります
- 令和8年度税制改正により、特例措置を使うための「特例承継計画」の提出期限は令和9年9月30日まで延長されました
- ただし、特例措置で贈与・相続を行う期限は令和9年12月31日のままです。検討している場合は、早めに専門家へご相談ください
従業員承継:資金と保証の問題をどう解決するか
会社の事業や社風をよく知る役員や従業員に引き継ぐ方法です。取引先や社内の混乱が少なく、これまでの経営方針を続けやすいのが利点です。

課題になりやすいのは、株式を買い取る資金です。業績のよい会社ほど株式の評価が高く、個人で買い取るのは簡単ではありません。後継者が設立した会社が金融機関から借入をして株式を買い取る方法や、段階的に株式を移していく方法など、資金の手当てを含めた設計が必要です。また、現経営者の借入金の個人保証を後継者がどう引き継ぐかも、金融機関と早めに話し合う必要があります。
M&A(第三者承継):後継者がいなくても会社を残せる
親族や社内に後継者がいない場合でも、他の会社や個人に引き継ぐことで、会社と従業員の雇用を守れます。経営者にとっては、売却代金を得られるという利点もあります。
一方で、相手探しから成約までには時間がかかり、条件の交渉も必要です。支援を依頼する仲介会社やアドバイザーを選ぶ際には、手数料の体系や、売り手・買い手のどちらの立場で支援するのかを事前に確認しましょう。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」(2024年8月に第3版へ改訂)も参考になります。
自社に合った選択肢を考える4つの視点
| 視点 | 考えること |
|---|---|
| 後継者候補 | 親族や社内に、継ぐ意思と適性のある人がいるか |
| 会社の状態 | 借入の状況、業績、自社株の評価はどうか |
| 経営者の希望 | 会社をどう残したいか。引退後の生活資金はどうするか |
| 時間 | 引き継ぎまでに、どのくらいの準備期間がとれるか |
3つの選択肢は、どれか一つに最初から決める必要はありません。まずは親族や社内の候補者と話し、難しければM&Aも視野に入れるなど、複数の道を並行して検討することで、選択肢を狭めずにすみます。
どの選択肢でも共通して必要な準備
- 会社の現状を数字で把握する(決算書・自社株の評価・借入と保証の状況)
- 経営の見える化を進める(月次決算、社長しか知らない業務の書き出し)
- 株式が分散していれば、少しずつ集約する
- 引き継ぎのスケジュールを、5〜10年の計画として作る
どの選択肢を選ぶにしても、「会社の状態を誰が見ても分かるようにしておくこと」が出発点です。社長の頭の中にしかない情報が多いほど、引き継ぎは難しくなります。
よくある質問
事業承継の準備は、何歳ごろから始めればよいですか?
後継者の育成や株式の移し方の検討には、一般的に5年から10年かかるといわれています。引退したい時期から逆算して、少なくともその10年ほど前には、承継の方向性について考え始めるのが理想です。
子どもに継ぐ意思があるか分からない場合は?
早い段階で率直に話し合う機会をつくることをおすすめします。会社の現状や将来の見通しを数字で共有すると、後継者候補も判断しやすくなります。継ぐ意思がない場合でも、早く分かれば社内の人材育成やM&Aの検討に時間を使えます。
自社株の評価は、どうやって確認すればよいですか?
非上場会社の株式は、会社の規模や業種に応じて定められた方法で評価します。業績がよい年や、資産を多く持っている会社は評価が高くなりやすい傾向があります。まずは顧問税理士などの専門家に、現時点での概算を試算してもらうとよいでしょう。
承継の相談は、誰にすればよいですか?
顧問税理士や取引のある金融機関のほか、各都道府県にある事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的な相談窓口もあります。税務・法務・財務と論点が幅広いため、全体を整理しながら必要な専門家につないでくれる相談先を持っておくと安心です。
M&Aを選ぶと、従業員の雇用はどうなりますか?
多くのM&Aでは、従業員の雇用を引き継ぐことが条件の一つとして話し合われます。雇用の維持を重視する場合は、その希望を最初から伝え、契約の条件に盛り込むよう交渉しましょう。買い手の経営方針や社風が自社に合うかも、大切な判断材料になります。
まとめ
- 事業承継の方法は、親族内・従業員・M&Aの3つ
- 後継者候補・会社の状態・経営者の希望・時間の4つの視点で比べる
- どの選択肢でも、会社の数字と経営の見える化が出発点になる
「何から始めればよいか分からない」「どの選択肢が自社に合っているか整理したい」という方は、お気軽にご相談ください。会社の数字の整理から、承継の計画づくりまでお手伝いします。

